芸術環境論特論II

 離島活性化プロジェクトの古民家改修や地域活性化事業を通じて「これからの新しい生き方」「古き良きものを守る大切さ」を研究する。

(1)身の回りの職人への特色ある活動について

 本レポートでは、筆者事業の離島活性化プロジェクトで共同するアメリカ人の職人 R・ブレット氏(写真7)の活動と、共に進めるプロジェクト(下記、本プロジェクトとする)の活動について記したい。R・ブレット氏は、2010年にアメリカ合衆国中西部の北、カナダに接するミネソタ州より長崎県五島列島(写真1)にある人口約2000人ほどの小値賀町に英語教師として赴任、その後、大工へ従事。五島だけでも数件の空き家改修を行ってきたそうだが、岡山県の破損した古民家も修復しており、いくつもの豊かな暮らしを提供している。この経験を通じて、日本の伝統的大工の知見を深めている。

 本プロジェクトは、9世帯しか残っていない五島の一部の離島である「納島(のうしま)」の開発を目的としている。2020年10月、島民だけでなく島外から訪れる人々の「豊かな居住」「働く環境」、そのための「コンテンツ」「ブランド」を作ることから始動した。

 離島活性化の対象となった古民家第一号を「Remote island HOUSE(写真2,3,4,5)」と記す。コロナの影響から、今やリモートワークや自然豊かな生活が注目を浴びているといえる。Remote island HOUSEはまさに「場所に囚われずに仕事・生活をする」ということを”当たり前化する”モデルである。離島であることをデメリットとして受け取るのではなく、逆転の発想で捉え、新しい事業を生み出すことは面白みの1つとなっている。

(1−1)新たな場所を創造する 古民家改修 Remote island HOUSEの誕生を目指す取り組み

 納島の対象とされた古民家は、築100年以上で、50年前に増築された形跡が残り、前住人の生活用品もそのまま残った状態。室内は、ホコリだらけで雨漏りの多い家屋であった。まず、前住人の生活用品の使用できるもの、処分できるものを分別するところから始まり、清掃を約10名程度で進めた。清掃をある程度進めた段階で、室内の壁、床の破損具合を確認する。

 Remote island HOUSEの間取りは、玄関から入って左手にリビングと客間、右手には風呂場とトイレの水場、奥にはキッチン空間が広がる。

<客間>(写真8,9,10)

 天井:腐っていたことから全て天井を抜く。ここには、梁がなく、屋根裏が見えてしまうことから、新たに天井を貼ることとした。

 床:畳は汚れが酷く、全て撤去する。そして、新たな和室を作り茶室としても活用できるよう、炉を切る。

 壁:壁はここにはなく、ふすまで間仕切りをしていたようであるが、全て外された状態であった。

 ライト:経年劣化で破損しているライトであるため取り外す。新たにライトを設置する必要がある。

<作業間>(写真11,12,13,14,15)

 天井:腐っていたことから全て天井を抜く。そして、天井の梁を美しく見せる空間を作ることとした。

 床:畳は汚れがひどく、全て撤去。そして、新しい天然の床材に渋柿を塗り、蜜蝋ワックスで仕上げる。

 壁:壁の破損がひどく、内壁の外壁木材を全て剥がし、天然の土漆喰を作り、漆喰塗り(写真6)を行う。乾かしたあと、装飾用の漆喰塗りを行う。

 ライト:すでに外されている。新たにライトを設置する必要がある。

 暖房:エアコンの付け替え

<リビング>(写真16,17)

 天井:腐っていたことから全て天井を抜く。そして、天井の梁を美しく見せる空間を作ることとした。

 床:畳は汚れが酷く、全て撤去。そして、新しい天然の床材に渋柿を塗り、蜜蝋ワックスで仕上げる。

 壁:ここには壁はなく、ふすまで間仕切りをしていたようであるが、全て外された状態であった。

 ライト:すでに外されている。新たにライトを設置する必要がある。

 暖房:薪ストーブを設置し、調理も兼ねられる仕様を目指す。

<階段>(写真18)

 壁:壁の破損がひどく、うち壁の外壁木材を全て剥がし、天然の土漆喰を作り、漆喰塗り(写真6)を行う。乾かしたあと、装飾用の漆喰塗りを行う。

<キッチン>(写真19)

 蛇口:破損が激しく取り替え。

 備え付けの台所:清掃をして、装飾が剥がれていることから、ペンキの塗り直し。

 床:畳は汚れが酷く、全て撤去。そして、新しい天然の床材に渋柿を塗り、蜜蝋ワックスで仕上げる。

 <風呂場>(写真20)

 ボイラー:破損が激しく取り替え予定。

 薪風呂:ボイラーと併用して設置する。

 タイル:老朽化でタイルが古びた雰囲気となっていることから、タイルを剥がし、新たに張り替え予定。

(1−2)R・ブレット氏へのインタビュー

 R・ブレット氏は、天然のものを大切に活かすことで見出す美しさを重じている。これは、以前ミネソタ州でのグリーン環境整備事業で、1ヶ月ほど自然環境に滞在して環境整備をする事業に関わっていた経緯からであろう。日本に憧れをもったのは幼少期の忍者に憧れたところからと話す。思い返せば同じ幼少期に、父親と馬小屋の修理などをしていたとのことだった。移住した家屋を修繕しては退去し、また新たな家屋を改修というサイクルを何度か繰り返していた。その中で大工の友人が増え、より専門的な知識を得るようになった。実際の古民家の破損部分を取り壊し、どのような作りがなされていたのか、当時の大工がどのように建築していたのかを想像しながら、実践で体感して学びを得たのであった。現在では、小値賀町で唯一の大工として活躍しており、古い日本家屋の造りに関してはその辺の日本人よりもずっと詳しいのではないかと思えるほどである。

(2)大工技術の歴史

 大工職人の期限や役1400年前の飛鳥時代にまで遡ると言われ、その大工の起源となる大工道具の「差し金(曲尺)」を中国から聖徳太子が日本に持ち込んだことから、日本の大工技術が発展したと言われる説がある。さらに聖徳太子は、建築に携わる職人の育成や組織づくりに関わり、法隆寺をはじめとする寺院の建立にも尽力したとされる。この時、土にかかわる職人を「左官」、木にかかわる職人を「右官」としていたようであるが、「右官」は後の奈良時代で上位の役職としての「大工」と言う名称となった。

 奈良時代には、自社の建立には大工の中でも役職があり、「大工」「小工」「長上工」「番匠工」という役職が置かれたようである。

 室町時代には、建設の幅は広がりを見せ、建築に携わる木工職人全般を「大工」として認識するようになり、その上位役職を「棟梁」としたようである。また、「大工」仕事が細分化され、宮大工や建具大工などそれぞれの専門分野に特化し、分業化が進んだとされる。

 江戸時代には、大工は花形の職業とされる。大工・左官・鳶の三職は、修行を積むため、住み込みの弟子入りをして、生活の全て合わせて10年程度修行を重ねて、現場で一人前として扱われるほど、厳しい世界であった。江戸は火事も多く、家を建てる仕事も自然と舞い込み、一人前になってからの生活は豊かなものであったとされる。

 このように大工が日本独自のものとして発展する中で、「木組み」技法が生まれ、日本の木造建築を支えてきたと言える。

(2−1)本プロジェクトを通した伝承

 本プロジェクトは、前途した昔ながらの大工界隈の住み込みでの伝承ではなく、大工と共に古民家の改修を行う共同事業による伝承を目指している。現代では家の強度も強くなり、古民家に関しては数多くあるものの人口減少の流れもあり、活用されていないものが多く見受けられる。この「古民家活用の活路」はこれからの課題ともいえる。

 そのためには、改修技術だけでなく「考え方」「ライフスタイル」「ワークスタイル」などの複合的な智惠を、体感を伴う形で伝承することが重要であると考え、本プロジェクトを遂行する。

 文明の発展により、家屋改修や設備を整えることが昔ほど労力を必要としなくなったことから、生活環境を整えるためのハードルも低くなっている。しかしながら、「古き良きもの」を現代人が今の生活仕様を大きく損なうことなく、古くからの生活仕様と合わせた形で楽しむことのできる素養を培わなければならない。そのためには、若手人材にプロジェクトの主要を担ってもらい、活動のサポートを各界のプロがサポートする方法を取っている。小川(2011)が「未熟なうちに任せなくちゃダメなんだ。できないということをわかっていて親方は任せて、そいつは引き受けた方には、何としてでも、とにかくやる方法を考えるんだ。」と棟梁のあり方を説いているように、自分で物事を考える力を付けながら、建築の改修をすることに意味があると言える。

 本プロジェクトの伝承は、地域を活性化するための複合的な環境整備を継続性のある形で進めることのできる人材を育成することにもある。

 下記では、人材育成の項目を大まかに列挙する。

伝承の対象:小値賀町の若手人材、五島以外の移住者

交流対象:小値賀島民、納島民

古民家改修技術:大工 R・ブレット氏

木材の素材:大工 R・ブレット氏、細川建設

地域活性化・地域デザイン:M・新太郎氏(地域コーディネータとして現職活躍)、H・雄生氏

デザイン:デザイナー数名

総合プロデュース:株式会社 百代

監修:長崎県小値賀町

<参考資料>

写真1 長崎県五島列島小値賀町 

写真2 長崎県五島列島納島

 写真3 納島 アコウの木

写真4 納島 田畑

写真5 納島古民家Remote island HOUSE 

写真6 漆喰作り

写真7 ブレット氏     

写真8 客間の天井       

写真9 客間の天井改修  写真10 客間

写真11 作業場 改修    

写真12 社業場 漆喰塗り後

橋本沙也加