空気感 No.2

ペーター・ツムトアは空気感について、「–あるいは私たちの心を打つ特質を備えているからです。–それが労力を傾けた仕事のたまものである、ということです。

私は慰めとなるところですが、建築的な空気感を創り出すという課題には、つまるところ職人的な側面が関わっているのです。プロセス、興味関心、器具、道具類、それらぜんぶが私の仕事に含まれる。

私はいまから、設計する建物に空気感を醸し出そうとする際に私自身がどんな感心んい動かされているのか、あらためて自分を見つめ–」としていることから、心を打つものの正体が労力をかけた人間の心・すべてが関わっていることを示している。

<空気感(アトモスフェア)を形成する9つ>

1つ目「建築の身体」

これは、建物や構造における、事物の物質としての存在を指しています。

「建築の第一のそして最大の神秘は、建築がこの世界からさまざまな物、さまざまな素材を集めてきてこうした空間を造っているということだ–私にとって建築物とは、解像学的構造を備えた身体にほかならないからです–建築は、私たちの体が解剖学的構造をもち、目に触れることのない内部をもち、さらにその上に被さっている皮膚を持ち、被いをまとっている–身体そのもの–触れることのできるものなのです」

2つ目「素材の響き合い」

これは、言葉の通り建築を通して、組み合わされる素材の共鳴を指しています。

「素材がたがいにどのような反応をするのか観察する。ご存じでしょうが、本当に相互反応が生じるのです!素材相互が共鳴し、するとそこがぱあっと輝き出す。しかもそうやって素材が組み合わされることによって、どこにもないひとる限りのものが生まれる。」

3つ目「空間の響き」

これは、空間の中では、音が集まり、拡張し、伝達し、それらが空間の携帯、素材の表面、素材の固定方法によってさまざまに響く様を指しています。

「私の場合、空間の響としていつまでもまっさきに心に浮かぶのは、子どもの頃、母親が台所で立ってていた音です。あの音が聞こえていれば私は幸せだった。」

「いま、建物そのものとは関係のない音を一切除いてしまうとしましょう。音を立てるものが一切ない、なんにもないと想像してみる。そうして問いを立ててみます–たとえ触れるものがなくても、建物は鳴っているのです。–しかし、無響空間に入ってみると、それとは何かが違うと、はっきり感じ取れる。素晴らしいと思うのです。建物を立てるとき、静けさのなかにあるところから建物を考えるのは、実に心をそそるのです。建物を静まらせるというのは、世の中がすっかし錚々しくなってしまった今日ではそうやすやすとはいきません。」

「えも言われぬ響のする建物があります。そういう建物は、私にこう言っているかのようです、おまえは護られているよ、ひとりではないよ、と。おそらく母親のイメージなのでしょう。」

ペーター・ツムトア
1943年スイス、バーゼルに、家具職人の息子として生まれる。 父の元で家具職人の修業後、バーゼルの工芸学校(Kunstgewerbeschule Basel)とニューヨークのプラット・インスティチュート(Pratt Institute)で建築とインダストリアルデザインを学ぶ。

空気感(アトモスフェア)ATMOSPHÄREN
著者 ペーター・ツムトア
訳者 鈴木仁子
判型 変型判 タテ190mm×ヨコ200mm
発行日 2015年7月10日